INTERVIEW インタビュー

企画|P.A.WORKS 堀川憲司

①本作に対する意気込みを教えてください。

P.A.WORKSの他の作品同様に、見た人が明日も頑張ろうと思える作品をド直球の‘応援’をテーマにして目指しました。
「人が人を応援する気持ちはどこから生まれてくるのだろう?」と自らに問い続けて作りました。そして、この物語を通して答えを見つけることができました。視聴者のみなさんもPoMPoMsのメンバーの姿から元気を受け取ってもらえたらいいな。そして、今度は誰かを応援したい気持ちが湧いてくるかも。そんな願いを込めて作りました。

 

②あなたにとって「応援」とは何ですか?

アニメーション作品や創作活動を通して人々の未来を応援したいというのがP.A.WORKSの理念です。
その結果、これまで手掛けてきた作品やP.A.WORKSを多くのファンが応援してくれているのを感じます。そのことが、これからも頑張ってアニメーションを作り続ける力になっています。応援する側であり、応援される側でもある。二者の間でお互いを思うことが、希望であり力になっている関係は素敵な応援の形じゃないかな、なんてことを改めて思いました。

 

 

【「菜なれ花なれ」本編について】 

本作の第一印象を教えてください。

完成映像の第一印象はセルと背景の色使いのインパクトですね。この色使いで監督が狙った効果と、視聴者は世界観にどんな印象を持つだろうかと想像しました。
アニメーションの制作工程のデジタル化が始まってから四半世紀を超えましたが、振り返ってみると3DCGの使用と並行してはじめに大きく表現の幅を広げたのは撮影で、次が背景、そして最近はセルと背景の色の作り込みに監督のこだわりを感じる作品が増えているように感じます。

 

本作で好きなキャラクターとその理由を教えてください。

穏花かな。他のキャラクターの元気さは年寄りには眩しすぎる。
穏花はおばあちゃん子だと思います。
恵深のお寺の縁側に座って、日向ぼっこしながら一緒にお茶を飲みたい。
彼女のとりとめのない妄想話に刺激をうけて、いろんな物語のアイデアを膨らませたい。
彼女がインド哲学と壮大な神話の魅力について語るのを、ぐんまちゃん羊羹を食べながら聞いていたい。聞きながら寝るとおもうけれども、穏花の妄想をアニメーションにしたい。

 

「ここを見てほしい!」と感じるポイントはどこですか?それはなぜですか?

オリジナル作品を制作するときには問いを立てて、その答えを探しながら物語を作ってきました。
今作の問いは「人が人を応援したいと思う気持ちはどこから生まれてくるんだろう」というもの。
もう1つはそれとは反対の感情。一人の人間がこの二つを持ち合わせていて、意識的であれ無意識であれ、制御しているのは普通のことだと思います。現代は制御のバランスが崩れているように感じます。
そんな自分を知る姿も描きたいと思いました。

 

【仕事内容編】

「企画・プロデューサー」はどのようなお仕事だと考えていますか?

制作現場を演出することと、調整と決断が主な仕事です。
制作現場のプロデューサーの仕事は3段階あります。企画立ち上げのプリプロ段階と、ポスプロまでと、納品後。
プリプロ段階ではこんな作品を作りたい、新しいことに挑戦したいと構想が広がります。
それが終わると構想を形にする責任があります。
スケジュール管理、質の管理、予算管理、スタッフ管理が主な仕事です。
完成後は大勢のファンに作品を知ってもらうことを考えます。

※プリプロとは、プリプロダクションの略で、企画の立ち上げから設定、脚本、絵コンテなど作品の実制作に入る前に行う準備作業のことです。
※ポスプロとは、ポストプロダクションの略で、アフレコ、ダビング、VTR編集など納品映像を制作する作業のことです。

 

企画・プロデューサーのお仕事をする上で大切にしていることを教えてください。

作品ごとにやってみたいと思う挑戦課題を設定することですね。
一つは作品を作りながら考えたい『問い』の設定です。これは好奇心です。映像表現でも新しい試みを設定すると、苦労はあっても楽しみの一つになります。
経営面ではビジネスモデルの模索や、新しいファンサービスなどですね。何故この作品を作るのかや何に挑戦するかを初期に設定しておくと、苦労で途方に暮れることがあっても戦略に立ち返って頑張る拠り所になります。

 

お仕事をしていて面白いと思う瞬間はどこですか?

何か面白いことが出来そうだという感覚を得たときとか、熱量と才能のあるスタッフと組めたときとか、制作スケジュールや質をコントロールする戦術が上手く機能して成果が出たときとか、想像を超えた刺激的な成果物を受け取ったときとか、制作現場の空気からよい緊張感や熱気を感じることができたときとか、アニメ業界のことで同じような問題意識を持った人と前向きな話で盛り上がったときとか、立てた問いの答えを見つけたときとか…

 

本作の企画立ち上げのきっかけを教えてください。

「応援をテーマに、チアをモチーフにして、見てくれた人が元気になる作品を作りたい」というお話をいただきました。
P.A.WORKSの理念は「未来を照らす灯りをつくる」ですし、これまでに作ってきた作品も、見た人が明日も頑張ろうと思える作品にしたいと考えてきました。
そこで、この作品を作りながら何を考えたいか、テーマ的な「問い」を立てました。また、ビジネス・スキームも、ファンサービスの方法にも、面白そうな試みがありました。

 

本作ならではのこだわったところ、大変だったところはありますか?

作品中何度も登場するチアリーディングやダンスシーンではモーションキャプチャーを使用しました。
P.A.WORKSにはその制作ノウハウが少なかったので、サンジゲンさんに全面的に協力していただきました。
多くの楽曲制作から振付けを考えて、チア・チームの練習、大規模なモーションキャプチャーの収録、サンジゲン・チームによる3DCGモーションの作成まで期間を充分に取ることができたので、大切なシーンを丁寧に作り込むことができました。

 

監督や制作プロデューサー、メーカープロデューサーとの会話の中で印象的だったエピソードがあれば教えてください。

監督から突然、度々発せられる「また思いついちゃいました!」ですね。
P.A.WORKSでは作品ごとに設定制作が制作日誌をつけています。日々の打ち合わせ時の監督の発言を拾ってコツコツと記録します。
その中から監督の考えや作品理解のためにスタッフが知っておいた方がよいと思う発言は、スタッフのグループウェアで公開して共有します。
監督語録を共有することは、監督が作品作りで目指していることを理解するためにも大切なことですよね。

 

各セクション(作画、仕上げ、撮影、美術など…)とのやりとりの中で印象的だったエピソードがあれば教えてください。

柿本監督から後藤みどりさんと綾奈ゆにこさんを脚本に呼びたいという話がありました。
監督が他作品でも長年タッグを組んでいる脚本家という紹介でした。個人的にお二人と仕事をするのは初めてだったので、初めは三人の奇妙な関係が不可解でした。
監督が二人に指示を出しているのか二人から教わっているのか、監督が二人に抵抗して我を通そうとしているのか、二人に謝っているのかを見分けるのが難しかった。楽しそうな三人でした。

 

普段生活している中で、「職業病だなぁ」と思うところはありますか?

生活している意識の77%は仕事のことで使っていると思います。アニメーションを作るのにためになりそうな情報にアンテナを張っています。
ニュース記事の中から作品に役立ちそうなネタを拾い集めています。世の中のよく分からないことは、とりあえずアニメ業界のことに変換して理解しようとします。
日常風景の中で絵にしてみたいところを切り取ります。犬と散歩をしている時は、その情景に合う劇伴をイメージして脳内で再生します。

 

おすすめのお仕事道具や、仕事をするときの必需品を教えてください。

ChatGPTはアイデアのキャッチボールの友だちです。
企画についていろんなアイデアが浮かんだときや考えを検証するときなど、深夜にくだらない質問をしても腹を立てずに丁寧に答えを返してくれます。
小難しい本を読んで理解が追いつかないときなどは、その部分を小学生にも解るように説明してくださいと頼むと易しい言葉で説明してくれます。
猿でも解かるレベルでと頼めばそうしてくれます。人と根気よく対話する姿勢は見習いたいですね。

 

今後お仕事の中で挑戦してみたいことはありますか?

挑戦してみたいことは色々あるけれども、残された時間は短いので優先順位をつけないといけません。
どんな仕事でもそうですが、やりたいことと求められることと、やれることがあります。
その3つが合えば力が発揮できて楽しいと思いますが、今はやっておかなければならないことが大きくなっています。
人を育てることと組織を育てること、小さな制作会社が作品を作り続けるために何に挑戦してきたかは、何かの形にしたいと思います。

 

本作をどんな人に見てほしいですか?

もちろん、どんな人にも見ていただきたいです。12話の中には彼女たちの小さな物語がいっぱい詰まっています。
それを見た人がこれまでどんな経験をしてきたか、いまどんな生活をしているか、何に関心があるのか、いまどんな気分なのかによって物語の受け取り方は人それぞれです。
願わくば、見終わったときに応援したいと思う人を思い浮かべたり、応援してくれる人を思い浮かべたりして、ちょっと元気になってもらえたら嬉しいです。